AI時代に、管理栄養士は何をする人になるのだろう
私には、一つ後悔していることがあります。
それは、これまで自分がしてきた仕事の記録が、まとまった形で残っていないことです。
正確には、記録をしなかったわけではありません。
時代は、手書きからワープロへ。
ワープロからパソコンへ。
机の引き出しには、3.5インチのフロッピーディスクが何枚も入っていました。
それがUSBになり、いつの間にかクラウドになりました。
働く場所も変わりました。
学校給食、行政、特定保健指導、高齢者施設、そして会社経営。
現場が変わるたびに、その仕事を覚え、その現場に合わせて使う道具も変えてきました。
私なりに、時代の変化に順応してきたつもりです。
きっと、その時々にはたくさんの資料をつくっていたはずです。
悩んだこともありました。
失敗したこともありました。
誰かに教えてもらったこともありました。
自分なりに工夫して、うまくいったこともありました。
でも、30年近く仕事をしてきた今、振り返ろうとすると、それらが一つにつながっていません。
あの頃、私は何に悩んでいたのだろう。
なぜ、この仕事のやり方を変えたのだろう。
失敗から何を学んだのだろう。
どんな人との出会いが、今の私の仕事につながっているのだろう。
目の前の仕事をすることに一生懸命で、その時の自分が何を考え、何を選び、どう仕事をつくってきたのかを残してきませんでした。
それが、少し悲しいのです。
もし、30年分の仕事の記録が残っていたら。
今の私は、そこから何を見つけられただろう。
若い管理栄養士に、何を渡すことができただろう。
そんな私が今、なぜかAIやDXのことを考えています。
人生とは分からないものです。
私はITに詳しいわけではありません。
新しいシステムを見ると、とりあえず触ってみるタイプではありますが、使いこなせずに終わるものもたくさんあります。
それでも最近、AIを使いながら仕事をしていて、考えることがあります。
AIは、どんどん賢くなっています。
文章を書いてくれる。
資料を整理してくれる。
情報を探してくれる。
アイデアも出してくれる。
では、AIがこれだけのことをできるようになった時代に、管理栄養士は何をする人になるのでしょうか。
知識を持っている人でしょうか。
栄養について説明できる人でしょうか。
献立をつくる人でしょうか。
健康診断結果を見て、生活改善を提案する人でしょうか。
もちろん、どれも大切な仕事です。
でも、AIが知識を整理し、情報を提示できるようになった今、
「知っていること」
だけでは、専門職としての価値を説明することが難しくなっていくのかもしれません。
私はこれまで、3万人以上の特定保健指導に関わってきました。
同じような健康診断結果でも、人によって話すことは違います。
食事の話から始める人もいれば、仕事の話を聞く人もいる。
「痩せましょう」と言っても動かない人が、別の一言で行動を変えることもあります。
教科書どおりにはいきません。
正しいことを伝えれば、人が変わるわけでもありません。
だから、この仕事は面白いのだと思います。
そして最近、AIやDXについて考える中で、ある疑問を持つようになりました。
私たち管理栄養士は、自分たちが何を考えて仕事をしているのかを、きちんと説明できているだろうか。
ベテランになるほど、
「なんとなく分かる」
「経験で判断する」
ということが増えていきます。
私自身にもあります。
でも、その「なんとなく」の中には、長い年月をかけて積み重ねてきた知識や経験があるはずです。
問題は、それが一人の頭の中にある間は、次の人に渡すことが難しいということです。
ベテランが辞めれば、知識も一緒に失われる。
新人は現場で失敗しながら覚えるしかない。
忙しい現場では、人を育てる時間も十分に取れない。
そして気づけば、専門職が頑張り続けなければ仕事が回らない。
私は、そんな仕組みを次の世代に残したくありません。
若い管理栄養士が10年かけて身につけてきたことを、もう少し早く学べるようにはできないだろうか。
経験のある管理栄養士が、長い時間をかけて身につけてきたものを、次の世代に渡すことはできないだろうか。
知識を探したり、記録を整理したりする仕事をAIやデジタルの力で支えることができれば、管理栄養士はもっと人に向き合う時間を持てるのではないだろうか。
そんなことを考えるようになりました。
私は、AIに管理栄養士の仕事をしてもらいたいわけではありません。
むしろ逆です。
AIができることが増えるからこそ、人にしかできない仕事が見えてくると思っています。
人を見る力。
問いを立てる力。
その人の生活背景を想像する力。
たくさんある情報の中から、今、この人に必要なことを選ぶ力。
そして、人が「やってみよう」と思えるところまで一緒に歩く力。
こうした力が、これからの管理栄養士にはますます必要になるのではないかと思っています。
そして最近、もう一つ考えていることがあります。
これからは、経験を記録するだけでは足りないのではないかということです。
記録は、残すだけでは使われません。
私のフロッピーディスクのように、どこかの引き出しに眠ってしまうかもしれません。
大切なのは、人が仕事をする中で経験したこと、悩んだこと、考えたこと、判断したこと、失敗したこと、そこから学んだことが積み重なり、次の人が使える知識になっていくことです。
記録が知識になる。
その知識が、次の人の仕事を助ける。
その人が新しい経験を重ね、また新しい知識が加わる。
そして、次の世代へ渡っていく。
AIやDXには、そんな循環をつくる可能性があるのではないかと思っています。
まだ答えはありません。
私自身も試行錯誤の途中です。
でも、もしかすると今、私が考えていることや取り組んでいることは、
「AI時代だからこそ求められる管理栄養士の力とは何か」
という問いにつながっているのかもしれません。
管理栄養士になりたいと思ったことがなかった私が、30年近くこの仕事を続けてきました。
そして今は、
もっと社会に必要とされる仕事なのに。
もっと活躍できる仕事なのに。
と思っています。
だから私は、AI時代の管理栄養士の仕事を考えてみたい。
AIに何を任せるのか。
人に何を残すのか。
経験をどう知識に変えるのか。
その知識をどう次の世代に渡すのか。
そして、専門職が疲弊せず、社会に価値を届け続けるためには、どんな仕組みが必要なのか。
これからOffice Nutrieで、一つずつ試していこうと思います。
私には、30年分の記録を残せなかったという後悔があります。
だから今度は、残してみようと思います。
成功したことだけではなく、迷ったことも。
うまくいかなかったことも。
考えが変わったことも。
新しく見つけた問いも。
答えが見つかるまでの過程を、このブログに残していきます。
数年後、この文章を読み返した時、
「あの頃、ここから始まったんだね」
と言えるように。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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筆者
管理栄養士 石田美枝
株式会社Office Nutrie 代表
健康経営支援、食環境づくり、栄養相談などを通して
「食を通じて幸せをつくる」活動を行っています。
